『トルタ』との出会い
『タルト』?と日本人なら誰しも思うのではないだろうか。だが『トルタ』だ。『トルタ』の存在を知ったのは会社の同僚との会話の中。フィリピンでは路上でよく食べ物を売っており、菓子は朝ご飯代わりなのだろうか、朝よく目にする。一通り路上菓子(笑)は食べつくした私は、未だ見ぬおいしい菓子を求めてフィリピン人の同僚を質問攻めにした(笑)。そこで彼が勧めてきたのが『アルガオ』の『トルタ』だった。会話に参加していた他のフィリピン人にとっても初めて聞く名前のようで、そんなに認知度は高くない模様。何でも、彼の父方の実家がアルガオにあり、トルタのおいしい店があるとのこと。
それから数日後、なんと彼がトルタを持って来てくれた!たまたま彼の父親が帰省したそうで、トルタを買ってくるようお願いしてくれていたのだ。なんていい子なんだ(笑)!初トルタは日本で言うところの『マドレーヌ』に似ており、大変おいしくいただいた。
『アルガオ』に『トルタ』を買いに行く
そんな出来事があり、いつかアルガオに行く機会があったらトルタを買おうと心に決めていた。そして今回、オスメニアピーク(【セブ島のトップ『オスメニアピーク(Osmeña Peak)』】参照)からの帰り道にアルガオに寄ることに迷いはなかった。
アルガオはセブ市とオスメニアピークを結ぶ海岸線道路のだいぶオスメニアピーク寄りなので、海岸線を走り始めて1時間もたたずにアルガオ市内に入った。言いかえれば、セブ市からは遠いのだ。何としてもこの機会を逃してはならない!固い決意でグーグルマップ先生にトルタの店の検索を依頼する。しかし、愚かな私は同僚が持って来てくれたトルタの店の名前を完全に失念していた…。マップ先生にあらゆる店の特徴を尋ねてみたものの、どれもピンと来ない。仕方ない。マップ先生一押しの店に行こう!
というわけで、私は口コミ評価が一番高い店を目指すことにしたのだ。名前は『Jessie’s Torta』。アルガオの中心地から少し離れたところにその店はあった。
看板のある敷地は見た感じ普通の民家のようで、入ることを躊躇した私はとりあえず通りすぎて様子をうかがった。やはりここだ。ここしかない。引き返し、思い切って門を通り抜ける。と、家の玄関口でくつろいでいた女性が声をかけてきた。「ここはトルタの店ですか?」と尋ねると、「ついてきて。こっちこっち。」と敷地の奥に招いてくれた。

奥には、レトロな雰囲気のある中庭がある。そのすぐ横の建物の壁の一角が少しだけ切り取られ、そこが受付のようになっていることに気付く。薄暗いその奥に目をやると、店の女性が立っていた。

『トルタ』を買う
女性が奥の棚に並べてある焼きたてのトルタをいくつか盆に取り、テーブルに並べる。思ったよりずっと大きい!以前同僚にもらったトルタの2倍ほどある!6つお願いすると、ひとつひとつ油紙で包んでくれた。違う棚に目をやると、ハートにかたどられたクッキーのようなものを発見。追加でお願いする。すると、女性が「アイスキャンディーもあるよ。」と私を更に誘惑する。無論迷いはない。お願いする。結局トルタ6つ、クッキーの袋詰め、アイス2本を大人買い。



店の奥に目を凝らすと、窯のようなものが見える!尋ねてみると、すぐそこに焼き窯があり、見学させてくれるとのこと。店の裏側にまわると裸の炎が目に飛び込む。窯?焚火?なるほど、上で火を焚いて下の窯で焼くのか。燃えているのは店の庭で日干しされているココナッツの殻だ。ココナッツは本当に捨てるところがないことに感心させられる。女性いわく、なんでもこの店は昔ながらのトルタの製法やレシピを守り続けているとのこと。おもしろい。大人の社会見学だ。焼きたてのクッキーの試食を期待した邪心もココナッツとともに灰になったが(笑)、家に帰るまで待てない。とりあえずトルタを温かいうちに食さねば!

『トルタ』を食す
ふいにアイスの存在を思い出す。まずアイスだ。マンゴー味とタブレア味。ちなみに、『タブレア』とは無糖のチョコレートのことである。私はセブに移住するまで知らなかったが、セブ島やボホール島、更に南のミンダナオ島などはコーヒーやカカオの産地だ。うまいコーヒー豆は日本から持って来なければ、という私の懸念はセブで生活してすぐなくなった。(フィリピンのコーヒーについては別に記したいと思う。)タブレアは無糖のチョコレートをタブレット状に固めたもので、フィリピン人はそれに湯と砂糖を加えてココアのように飲む。つまり、マンゴー味とチョコ味のアイスだ。フィリピンの手作りアイスは大体ビニール袋に入っていて、先を破ってかじるシステム。店の庭先にあるベンチに腰を下ろし、木陰でいただく。どちらも濃厚でうまい上に、一つたったの10ペソ。特にタブレアアイスは濃厚だが甘すぎず、大人の仕上がり。

期待以上のアイスを瞬で平らげ、さあさあ、トルタのご登場。温かいトルタを頬張る。優しい甘みの奥にさわやかな酸味を感じる。さっき店の女性に聞いたが、トルタには『トゥバ(Tuba)』というココナッツの果汁から作った酒を使うのだそうだ。トゥバはボホール島に行くと路地端で売っているのを見かけるが、酒としての寿命がとても短い。あっという間に酢に変わってしまう。ボホール出身の同僚が、トゥバをお土産で買ってきてくれたことがあったが、既に酢であった…。なるほど、トルタのやさしい酸味はトゥバが演出しているのか。これが米酢やワインビネガーでは恐らくこの味は出せないのだろう。正直、フィリピンで食べたケーキ、焼き菓子系スイーツの中で一番うまい。6つと言わずもっと大人買いすればよかったか…。いや、次回また来た時の楽しみとして残しておこう。
セブの家に帰宅後、ドライマンゴー工場で直売していたマンゴー(【7Dドライマンゴー工場アウトレット】参照)とバニラアイスを添えていただいた。もはや我が家はカフェであった。やっぱりもっと買うべきだったかな…。
